教員情報
ホーム  >  教員情報  >  研究紹介

鏑木 時彦 教授 研究紹介

研究者情報

研究室ホームページ

 音声の発話と聴取を通じて相互に意図を伝達し、情報を交換・共有するコミュニ
ケーションの能力は、人間に特有のものです。音声のように、言葉を伝えるコミュ
ニケーションのほかにも、我々人間は、さまざまな「音による自己表現の手段」を
もっています。
•ことばを話す
•歌をうたう
•管楽器やハーモニカを吹き鳴らす
•口笛を吹く
•腹話術で人を楽しませる
 音声を発話するには、口、喉、肺といった音声器官が使われます。そもそも、こ
れらの器官は、呼吸や摂食のために、人間が生得的にそなえているものです。人は、
それらの呼吸器官をたくみに利用することで、上で述べたようなさまざまな自己表
現の手段を身につけているのです。言語的情報、非言語的情報を含む、人の「自己
表現」の能力について調べることは、「人の多芸、多才を科学する」ことだともい
えるでしょう。また、これらの自己表現が、すべて人の音声器官によって行われ、
人の生体機能が深くかかわっていることから、我々はこれを、『ボーカル・パフォ
ーマンスの生体音響学』と呼んでいます。

 我々は、上で述べたような「音」を用いた人のパフォーマンスを、統一的な見方
でとらえようと考えています。これらのパフォーマンスの背後では、いろいろと複
雑な物理現象が、同時に起きています。それは、たとえば、以下のようなものです。
•肺から呼気を吐き出す。
•声帯を開けたり閉めたりして、呼気流を調節する。
•呼気の力によって声帯や唇を振動させ、一定のピッチをもつ周期音を発生させる。
•口、唇、あるいは声門を呼気が通過するときに、摩擦性雑音を発生させる。
•口の中で周期音や摩擦音を共鳴させて、特定の周波数の音を聞き手に知覚させる。
したがって、これに関連した研究の対象も、
•「発声エネルギー」を供給する空気流の運動
•「空気流」からの「音」の発生
•「音」を伝える空気の振動や、口の中での共鳴
•声帯や唇など、生体組織の弾性運動
など、多岐にわたっており、これらの物理現象をいかに効率的にモデル化し、計算
機で計算するかを検討しています。

 人のボーカル・パフォーマンスは、非常に多岐にわたっています。聞き手に伝え
られる情報もさまざまです。しかし、一見、多種多様に見えるパフォーマンスの数
々が、じつは、少数の基本的な物理現象の組み合わせでできているとすれば、種々
の現象を見通しよく、効率的にとらえることが可能になります。つまり、要素とな
る「基本的な物理現象」への還元です。逆に、複数の「基本的な物理現象」を組み
合わせることで、いろいろなパフォーマンスの仕組みを説明することができます。
 このように、我々は、ボーカル・パフォーマンスの研究を通して、「人」と「音」
と「情報」のかかわりについて、深く理解していきたいと考えています。
発話運動を観測するための磁気センサシステム

発話運動を観測するための磁気センサシステム

MRIによる声道の断面イメージ

MRIによる声道の断面イメージ

Page Top